社会人司法試験受験生の雑感

司法試験(&予備試験)についての雑感を残すためのブログです。平成30年予備試験と令和元年司法試験を受験しての雑感を残しています。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その3)【民法】

 さて民事系科目のトップバッターは民法です。設問1はそれなりに出来たと思ったのですが、設問2と設問3は自分の答案が正解筋なのかどうか書きながら今一つ自信が持てませんでした。民事系科目は3つあわせて199.77点でしたが、おそらく65点程度の得点が付いているものと思われます。

 

1.答案に書いたこと

 設問1については、問題文を見て「ああ、これは『事例から民法を考える』にもあった請負契約目的物の所有権の帰属についての話だな。その後民法717条1項に当てはめればいいのだな」とすぐに方針が立ちました。まずは「物権法の世界の理屈でいくと材料を提供した人に所有権が帰属すると考えるべきであるから材料提供者に所有権が帰属するのが原則→本件では請負人に帰属すると考えるのが原則。しかし、請負契約の定めにより注文者が代金の大部分を既に支払っているのであれば契約法により当該原則は修正され、注文者に所有権が帰属する旨の特約があるものと考えるべきである→本件では代金総額の8割を支払っているのだから注文者に所有権が原始的に帰属している」旨を書きました。そのうえで、「設置」の「瑕疵」があるかについて「瑕疵」の意義を「工作物が通常有すべき安全性を備えていないこと」と解して本件では瑕疵がある旨を認定し、損害の発生、因果関係も認められることを簡潔に認定しました。また、但し書きの「必要な注意をした」といえるかについても当てはめをしたのですが、この点については何を書いたか正確には覚えていません(当該建築資材は多くの新築建物に使われていて、しかもたまたま強度不足だったいうアンラッキーな事態なので占有者に帰責するのは酷だともいえるが、かといって所有者に帰責するのも筋が違うので、そうするとやはり必要な材料を自ら調達した占有者(請負人)は必要な注意をしたとはいえず占有者に帰責すべきで、所有者は責任を負わない、占有者は本件資材の製造業者に求償することで対応すべき、というようなことをゴチャゴチャと書いた覚えがあります)。

 設問2については、一目で難しいなと思いましたが、基礎的な理解を示すことが重要だと思い、つらつらと思考過程を書きました。まず㋐を根拠づけるためには、賃貸人の地位の移転について論ずる必要があるため、契約上の地位の移転についての原則論(両当事者の合意が無いと移転しない)を述べたうえで、賃貸借契約については賃貸人の地位の移転を認めた方が賃借人にとっても有利であることから、建物所有権の移転+登記の移転により賃貸人の地位が移転し第三者にも対抗できる旨記載しました。そして、(このへんは自信無かったのですが)Fが譲り受けた将来債権はあくまでDが本件建物の所有者である限りにおいて発生すると考えるべきものであり、建物所有権がDからHに移転した以上は売買目的物である賃料債権が不発生になったものと考えるべきであるからEが当然に賃料の支払を受けることが出来るというようなことを書きました。

 次に㋑を根拠づけるためには将来債権譲渡の有効性について論ずる必要があるため、債権の特定性があって公序良俗に反するような事情も無いことから有効である旨簡潔に書き、そのうえで第三者対抗要件を備えていることにも触れました。そして、㋐の主張とは反対に、将来債権譲渡契約においては契約時点において将来債権の帰属が債権譲受人に移転していると考えるべきであり、しかもこれは第三者対抗要件を備えているのであるから、後から建物所有権を譲り受けた譲受人は自己への賃料債権の帰属を対抗できない。したがって、Fが賃料の支払を受けることができる、というようなことを書きました。

 最後にいずれの見解が正当であるかについてですが、ここは私見を書くべきところですので、㋐と㋑の主張を前提に裁判官の立場になったつもりで論じましたが、正直何を書いたかあまり覚えていません(議論が噛み合っているのか自信もなかったです)。信義則を用いた議論を展開した記憶はあるのですが……

 設問3については、前半部分でD,G,Hの間の契約が「第三者のためにする契約」であることを延々認定したうえで、最終的に錯誤の話を論じました。錯誤については「①動機の錯誤も「錯誤」に含まれるか②動機が表示されて法律行為の内容になったといえるか③表意者に重過失がないといえるか」について淡々と当てはめました。前半部分は書いている最中は自信をもって書いていたのですが、出題の趣旨を見る限り「第三者のためにする契約」であることを認定する実益は無さそうですので、余事記載と扱われているのかなと思います。

 

2.本試験を受けて感じたこと

 民法については、事案を適切に把握して題意を読み取ることが難しいなと改めて感じました。設問2にしても設問3にしても登場人物がそれなりに多く、利益衡量を行う上で各当事者間の関係を問題文からすばやく把握・整理しなければならず、正直私も本試験の時間中には腰を落ち着けて考える余裕はなく、何が正解筋なのか自分の中で自信を持てませんでした。

 とはいえ、設問2にしても賃貸人の地位の移転についての議論や将来債権譲渡契約の有効性といった基本的な論点については、理解していることを示すために丁寧に書きました。また、設問3にしても、錯誤の処理の仕方について基礎的な理解があるということが伝わるように条文の文言に沿って丁寧に解釈し、一つ一つの要件を充足するかについて順次検討しました。

 本試験の厳しい時間の制約を考えると、例えば設問2のように㋐の立場、㋑の立場、私見と3つの立場から論ぜよと言われて、即座に議論の見通しを立てるのは難しいと考えられます(実際、私も書きながら考えるというような感じで、書く前に全体の見通し・構成は立てられませんでした。おそらく私の答案の私見も何を言っているのか怪しいと思います)。あくまで相対評価の試験の中で不合格にならないためには、どれだけ基礎的な理解を有しているかを採点者に丁寧に示すことが重要であると思われますので、民法においては、問題の所在を示したうえで一つ一つの要件を丁寧に検討するという姿勢で試験に臨むことが肝要であるといえるでしょう。そして、一つ一つの要件を漏らさず検討する、という意味では、要件事実的思考を身につけることが遠回りのようで近道であるように思います。