社会人司法試験受験生の雑感

司法試験(&予備試験)についての雑感を残すためのブログです。平成30年予備試験と令和元年司法試験を受験しての雑感を残しています。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その4)【商法】

 続いて商法です。設問1の比較の問題だけは何を問いたいのかが分からず的外れな比較になってしまいましたが、周りもあまり出来ていないものと思料されるので、ここでは大きな差がつかなかったものと判断されます。設問2と設問3はそれなりに処理できたように思われるので、おそらく70~75点程度の点数が付いたものと思われます。

 

1.答案に書いたこと

 まず設問1ですが、これは正直できませんでした。もちろん、臨時株主総会を自ら招集する場合(297条)との定時株主総会の開催に当たり株主提案権を行使する場合(303条)のそれぞれについて条文を挙げて手続を説明することはしましたが、比較の際に基準日の話を延々としてしまい、おそらく題意を外してしまっているものと思われます。もっとも、前述のとおり設問1の題意は多くの受験生が正確に捉えられなかったでしょうから、ここで致命的なダメージは負わなかったようです。

 設問2についてはブルドックソース事件という具体的事件名までは思い出せませんでしたが「あーあの247条を類推適用した判例か」ということはすぐに分かりましたので、277条の新株予約権無償割当の場合も247条の趣旨が妥当することを論じた上で、1号・2号それぞれについて分けて検討しました。

 1号違反については「法令」に違反するかにつき、具体的に109条1項を挙げて株主平等原則に違反するかを論じました。すなわち、株主平等原則は株主としての資格における法律関係については平等でなければならない旨定めているところ、新株予約権を取締役会の決議により取得する場合の対価は上記法律関係に該当するため株主間で平等でなければならないが、本件では適格者の場合に普通株式1株を与えるのに対して非適格者の場合は1円しか与えないというのが平等ではないのではないかという論点です。この点、問題文を頑張って読みましたが「1株と1円とで価値が違うのかどうか」が分からず(株価が書いてなかったように思いました)、とはいうものの「資本金が20億円あるのに1株1円ということは無いだろう」と考え、結論として対価の経済的価値が著しく不均衡であり平等とはいえないとして109条1項違反すなわち1号違反であると認定しました。

 2号違反についてはまず「著しく不公正な方法」という文言は抽象的なのでその意義を明らかにする必要がありますが、まず主要目的ルールの規範を定立のうえ、本件では新株予約権行使の際の払込額が1円であることから資金調達目的が主目的とはいえないこと、そして新株予約権の発行(無償割当て)は取締役会の決議により株主構成を変化させる行為であるところ、株主によって選任される取締役が自らにとって都合の悪い株主に不利になるように新株予約権を発行(無償割当て)することは株式会社の権限分配秩序を侵すものであるから、原則として「著しく不公正な方法」に該当する旨論じました。とはいえ、株式会社の価値を支配しその在り方を決めるのは株主であり、敵対的買収者が現れたとして会社の価値を毀損するものかどうかの判断は究極的には株主に委ねられるべきであるから、取締役会の決議で決定するのではなく、株主に適切に情報が開示され適正な手続が踏まれたうえで株主総会新株予約権無償割当てが決議されたのであれば、「著しく不公正な方法」に当たらない旨論じました。そして、本件では適切に情報が開示され適正な手続が踏まれたうえで株主総会において株主が賛成しているのであるから「著しく不公正な方法」には当たらないと結論付けました。

 最後に設問3ですが、設問2にかなり力を入れて書いたため、設問3を書き始める頃には残り時間が25分程度 だったのである程度簡潔にまとめました。骨格としては、①決議1の効力について、株主総会が会社の最高意思決定機関であることに鑑みると取締役会の権限を定款(株主の賛成)により株主総会の権限とすることは適法であるから、決議1は有効である。そして任務懈怠について、②会社法の権限分配秩序に鑑みるに原則として取締役は株主総会が適法に決議した事項に従って職務を遂行する必要がある③もっとも、株主が経営に必ずしも明るいわけでは無いことから、株主総会決議に従うと会社に損害が発生することが明らかに見込まれるような例外的な場合には、会社経営のプロである取締役は会社に対して負う善管注意義務として自らその是非を検討のうえ業務遂行の意思決定をする義務を負うと解すべきである。④本件では確かに株主総会決議は適法に成立していえるが、「P倉庫を売却すると,競合他社に多数の顧客を奪われるなど,50億円を下らない損害が甲社に生ずることが見込まれた。他方で,P倉庫の近隣の不動産価格が下落する兆候は,うかがわれなかった。」のであるから、株主総会決議に従ってP倉庫を売却すると会社に損害が発生することが明らかに見込まれる。にもかかわらず自らその是非を検討せずに漫然と株主総会決議に従ったのであるから、「任務懈怠」がある。⑤そして、最後に損害の発生及び数額、因果関係、及び無過失による免責は認められないことについて簡潔に述べました。

 

2.本試験を受けて感じたこと

 商法についても判例学習が重要であることは言うまでもないのですが、本試験を受けて感じたのは、設問1は判例どうこうという問題ではないし、設問2もブルドックソース事件の事案処理を正確に覚えてたわけじゃないし、設問3は現場思考型の問題であるように思われます。例えば、設問2であれば、247条類推適用については判例を知っていたからこそ書けましたが、1号・2号それぞれへの当てはめの過程は問題文の事情をなるべく使えるように現場で考えました(判例の規範はぼんやりと知っていましたが)。設問3であれば任務懈怠責任を認定する際の構造について基礎的な理解を有していることは重要ですが、「取締役は株主総会決議に絶対従う必要があるの?それとも決議に反して自ら経営判断していいの?」というのが設問者の問題意識なんだろうなというように自分は理解した上で、本件事案で会社に多額の損害が生じていることを踏まえると「やっぱ株主総会決議に盲従してたら取締役は責任を逃れられるってのは結論が妥当じゃないよね」と考え、取締役の責任を肯定する方向で事案を処理しました。

 何が言いたいかというと、会社法では例年問題文に多くの事実関係が記載されており、当然ながら作問者はこれらの事実関係を積極方向・消極方向双方で当てはめにおいて十二分に使ってくれることを期待しているものと考えられます。そうすると、あまり「規範定立を判例の通りにやろう」と拘るのではなく、現場で事実関係から逆算して自ら規範定立するような力も問われているように思われます。もちろん会社法の基本的な条文及びその趣旨を理解しておくことが必要ですが、いったん基礎的な理解が得られてしまえば早々に演習書(私は『事例で考える会社法』を愛用していました)を読んで、問題文のどの事実関係をどのように当てはめで使うのかにフォーカスして学習するのが良いように思います。私の感覚では、商法は他の科目よりも規範定立の自由度が高い(条文の適用が適切にできることは当然の前提ですが、それが出来ていれば判例の枠組みから離れてもある程度許される)ように思われますので、学習の際は早い段階から当てはめを如何に説得的に行うかに意識を向けてみるのが肝要かもしれません。