社会人司法試験受験生の雑感

司法試験(&予備試験)についての雑感を残すためのブログです。平成30年予備試験と令和元年司法試験を受験しての雑感を残しています。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その5)【民訴】

 さて民事系最後の民訴ですが、全科目の中で唯一、試験後に「やっちまったかあ・・・」という感想を抱いたのが民訴でした。言い訳めいてしまいますが、前日にあまり寝付きが良くなかったので集中力的にも厳しくなっていたことに加え、設問1の出だしから分からなくて出鼻をくじかれたのもあり、最後まで地に足が付いていない感覚のまま試験時間の終了を迎えてしまいました。とはいえA評価で踏みとどまったのは設問2,3で最低限のことは書けていたからだと思います。予想得点は60~65点程度です。

 

1.答案に書いたこと

 先ず問題の設問1ですが、管轄は全くのノーマークでした。予備試験の口述試験の対策の過程で若干は勉強しましたが、設問を見た瞬間「うわ、無理だ」となりました。が、何かしら正答っぽいことを書かないといけないので捻りだしましたが、課題(1)については「契約の解除によって管轄の合意も遡及的に消滅するから云々」ということを書いて見事明後日の方向に行きました(試験後に「付加的管轄合意」という概念を初めて知りました)。ただ、課題(2)の方は何とか会話文から出題趣旨を想像して、「法17条の要件を充足するならば移送が認められる」として「当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」という要件について問題文の事情を拾ってできる限り丁寧に当てはめることが出来たので、ノーマークの分野から出題されても出題趣旨を頑張って推測するのが大事だと感じました。

 続いて設問2ですが、これもパッと見は何が正解筋か分かりませんでした。とはいえ会話を読むと元の請求と変更後の請求のそれぞれにつき裁判上の自白の成立の有無を検討して云々すればいいのだなというのは分かったので、先ずは裁判上の自白の意義について弁論主義の趣旨に遡って論じた上で、自白が成立するのは主要事実についてのみであることを述べました。そして予備試験時に勉強した要件事実を思い出しながら、④の事実は元の請求においては主要事実であるから裁判上の自白が成立するけれども変更後の請求においては間接事実であるから裁判上の自白が成立しない旨論じました。その上で、変更後の請求それ自体としてみると間接事実について裁判上の自白は成立しないから撤回が許されそうだけれども、元の請求で裁判上の自白が成立してしまっており問題文で「元の請求についての訴訟資料は,特に援用がなくとも追加された請求についての訴訟資料になる」とされているのであるから、原則として裁判上の自白の撤回は許されない旨書きました。一方で、自白の撤回が制限されるのは相手方の信頼を保護すべきである点に求められるところ、本件でYが裁判上の自白を撤回せざるを得なくなったのはは「Xが100万円という高額の請求を後から追加した」というX側の事情によるもので、Xは自ら請求を追加したのである以上、その対応としてYが認否を変えることを甘受すべきで、ここではXの信頼の保護よりもYの訴訟追行の自由を優先すべきであるから、裁判上の自白の撤回は例外として認められる、と論じました。

 最後に設問3ですが、これも正直言って全然思っていたのとは違いました(どうせ既判力絡みのネタが出題されるんでしょう?と思ってました)。ですが、問題文に文書のプライバシーが云々と書いてあるので「ああこれは自己利用文書の話をすればいいのだな」というのは分かりました。ですので、220条4号ニを引用して、当てはめを頑張ろうと考えました。自己利用文書の意義についての規範は正確には思い出せなかったのですが、①外部への開示を想定した文書なのか②開示により損なわれる文書利用者の利益の内容・性質を勘案して判断すべき、というようにざっくりと規範を立てて当てはめを書きました。①については、本件日記の性質(業務で毎日書かなければ日誌ではなく個人的な日記であり、外部への開示を想定して書かれたものではないこと)を書き、②については、日記は通常他人に見られることを想定して書いていないからプライバシーという重大な利益が損なわれるのではないか、とはいえ本件日記の記載内容はキャンピングカーの設計の不備についての記載で、要保護性の高い内容とは言いがたいのではないか、日記を書いたTは故人であり故人のプライバシーの要保護性は生者と比較すると一定程度後退するのではないか、とはいえ日記作成者の近親者である妻が開示を拒んでいるということはやはりプライバシー保護の要請が高いのではないか、といったことを書きました。

 

2.本試験を受けて感じたこと

 先ず試験内容とは関係の無い話ですが、個人的に一番体力的に辛いなと感じたのは民訴の試験中でした。前日に選択科目・憲法行政法と受けて、当日も民法会社法で頭をフル回転させていたので、疲れが一気に来た形で試験時間中に若干ボーッとしました。司法試験は体力的にそもそもきついのと、緊張やホテル泊といった状況で十分に疲労回復できるとは限らないこと等から、体力面のマネージメントは重要であるものの難しいなと感じました。とはいえ試験時間中は火事場の何とやらで何とかなるのもまた事実なので、仮に寝不足等でしんどい状況でも試験会場に着いてしまえば切り替えるのが大事だと思います(結果として私の民訴も何とかなっていたので)。

 さて、民訴についてですが、最後まで対策が最も難しい科目だと思っていました。私は判例百選と事例演習民事訴訟法を使っていましたが、事例演習民事訴訟法も司法試験の形式に近い演習書とは言いがたく、正直言って民訴に限っては過去問を検討するのが最も役に立ったかもしれません。処分権主義、弁論主義、既判力、複数当事者訴訟等々の重要概念については定義をきちんと理解するとともに、司法試験の再現答案において成績優秀者がそれらの概念がどのように活用しているのかを確認することが最も重要だと思います。それとともに、民訴では判例の射程について直接的に問われる形の出題もありますので、他の科目以上に判例集を用いた学習も一方で重要です(私の場合は前述のとおり判例百選を使いました)。

 また、民訴では設問の前に必ず会話が掲載されるので、この会話の誘導に乗る形で答案を書くことが絶対的に重要です。過去問を検討する際に会話を読んでなお何を書けばよいか分からない場合には基礎的な理解が不足している可能性が高いように思われますので、過去問を見て「会話を読んでも何が要求されてるのか見当もつかない」という場合はもう一度基本書の該当箇所の記載に戻って基本的な理解の確認に努めるのが良いでしょう。