社会人司法試験受験生の雑感

司法試験(&予備試験)についての雑感を残すためのブログです。平成30年予備試験と令和元年司法試験を受験しての雑感を残しています。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その7)【刑訴】

 いよいよ選択科目を除けば最後になりましたが、刑訴です。刑訴は予備試験時はそこそこ書けたなあと試験後に思ったもののC評価だったのでリベンジを期して挑んだのですが、結果A評価だったので嬉しいです。刑法と同じく70点前後の得点が付いているものと思われます。

 

1.答案に書いたこと

 問題文を一目見て「資料に表まで付いてるし、長いよ・・・」という嫌な印象を受けましたが、問題文に「異なる結論を導く理論構成を想定し~」と書いてあったので、「別件基準説と本件基準説で書いて結論を変えれば良いのね!」という方針はすぐにたち、事前に問題文の事情をどう当てはめに使うかを考えだすと時間切れになりそうだと思ったので書きながら考えることにしてすぐに書き始めました。実体喪失説とかも古江本で目にはしていたので一瞬頭によぎったのですが、いわゆる普通の別件基準説と本件基準説しか書ける自信が無かったので冒険はしませんでした。

 先ずは自説として別件基準説の定義を書き、別件基準説においては別件の身柄拘束自体の適法性を検討して適法であれば、本件の取調べの適法性については余罪取調べの問題として処理するという標準的な流れで書きました。①逮捕の適法性②勾留の適法性③勾留期間の延長の適法性→全て適法なので④余罪取調べの適法性→これも適法なので結論適法、という結論です。自分の理解を示すために、それぞれ根拠条文を示したうえで(逮捕については刑訴規則143条の3も示しました)一つ一つの要件を提示したうえで当てはめました。余罪取調べについては学説上も対立があるところですが、事件単位の原則による拘束は受けるという説に簡潔に反論を述べたうえで任意捜査としてであれば別件での身柄拘束中も本件目的の取調べ可能という立場を提示しました(適法という結論にしたかったので)。逮捕勾留周りの条文や手続の流れは予備試験の口述試験の対策をする過程で整理出来ていたので、思い出しながら書いた形です。

  続いて異なる理論構成ということで、本件基準説の定義を書き、本件基準説においては別件の身柄拘束手続がそれ自体として適法であっても身柄拘束の主目的が本件の捜査にある場合は事件単位の原則を潜脱するものとして許されない旨述べて、主目的が別件の捜査にあるかは捜査官の内面に関わり判断困難であるから事後的に捜査の具体的経過や捜査官の主観等を総合して判断すべきであるとして、問題文の事情を拾いながら違法という結論を導きました。そしてこれを採用しない理由については①令状発布の時点で裁判官が捜査の主目的が本件にあるのか否かを判断することは非常に困難②別件の身柄拘束自体を見れば適法であるのに事後的に捜査目的を考慮してこれを違法とするのは行き過ぎで余罪取調べの問題として判断すれば足りる、というようなことを簡潔に書きました。

 実は別件逮捕の論点は司法試験を受ける直前までイマイチしっくり理解出来ていなかったのですが、このままではマズいということで直前期に古江本の該当箇所と堀江慎司先生の書いた判例百選の「16.別件逮捕・勾留と余罪取調べ」を読んでいたのが良かったな、という出題でした。当てはめは答案を書きながら問題文からザーッと抜き書きするような形で書いたので詳細は覚えていないのですが、拾えそうな事情はとりあえず拾った上で必ず自分の評価を加えるようにしていました。結局、資料1の表はほとんど無視する形になってしまったのですが得点は悪くなかったので、資料1を上手く使えていれば加点要素にはなるものの合否には影響なかったように思います。

  設問2については公判前整理手続と訴因変更の合わせ技といった問題ですが、公判前整理手続については予備試験の実務基礎科目と口述試験の対策できちんと勉強したので迷いなく書けました。訴因変更についても直前まで理解が怪しかったので、過去問や判例百選を読んでGWに理解を整理していたのが良かったように思います。

 先ず公判前整理手続終了後の証拠調べ請求が制限されている(316条の32)点について言及したうえで、手続終了後の訴因変更の可否については明文の定めがないからどうしましょうかという流れで論点設定しました。そして、316条の3を引いて公判前整理手続の目的を書いたうえで、316条の5第2号において「訴因又は罰条の......変更を許すこと」が公判前整理手続において行うこととして明記されていることに照らすと、手続終了後に自由に訴因変更を許すと制度目的に反するうえ手続の実効性を害するから「やむを得ない事由によって公判前手続終了前には訴因変更をすることができなかった」という場合でない限り、原則として手続終了後の訴因変更は許されない旨書きました。そして、本件では公判期日において被告人が突如供述を翻したことからこれに対応するために訴因変更せざるを得なかったもので、公判前整理手続において訴因変更すべきとはいえないから「やむを得ない事由」があるといえ、訴因変更は許される旨書きました。

 最後に訴因変更の論点については時間も無かったのであっさりと書きました。訴因変更の要否について、構成要件が変わっちゃうので審判対象自体が異なってくるから訴因変更は当然に必要である旨一応述べたうえで、公訴事実の同一性(312条1項)について、基本的事実関係を同じくするから訴因変更は許される旨を書きました。

 

 2.本試験を受けて感じたこと

 実は、試験終了後に「ミスなく手堅くまとめることができたな」と最も感じた科目が刑事訴訟法でした。予備試験の論文(刑事実務基礎)と口述(刑事)の過程で捜査や公判前整理手続周りの条文操作にはかなり習熟できたように思いますので、予備試験と司法試験との連続性を感じた科目でもあります。

 今年度においては設問1で「異なる結論を導く理論構成を想定し」という条件があり、刑法と同じく傾向変化と捉えられているような向きもあるようですが、どちらかというと捜査分野については従前通りに正確な条文操作と問題文の事実の摘示及び自分なりの評価の提示を淡々と繰り返すことが大事だと思います。私の答案でも、別件基準説の記述については逮捕・勾留・勾留延長・余罪取調べとひたすら条文を挙げて要件を提示して問題文の事実を拾ってきて評価しただけといえばそうなのですが、こういった基本的な部分の精度で案外差が付いているものと思われます。

 設問2の公判前整理手続ですが、予備試験の実務基礎科目では公判前整理手続からの出題が必ずといって良いほどあるので、予備試験受験生は学習の過程でかなり詳しく押さえているものと考えられます。公判前整理手続の重要性を考えると今後も出題が継続されることが想定されるので、条文操作をきちんとできるようにしておくのが重要でしょう。また、判例百選においても54-58までの5つが公判前整理手続に関する判例ですので、公判前整理手続に関する主要な判例は十分に理解しておく必要があると思います(逆に、一度理解してしまえば、解釈論が難しいといった点は特に無いので、アドバンテージになると思います)。

 刑事系科目は民事系科目のように「困ったら利益衡量で妥当な結論を示して逃げよう」といった手が通じにくい科目であり、規範定立(法解釈)はある程度定型的な書き方があるように思いますので、勝負の土俵に立つ前提として条文操作及び法解釈については十分に習熟したうえで、演習書や判例を読みながら事実の拾い方や評価の仕方を意識して勉強する必要がありそうです。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その6)【刑法】

 いよいよ公法系と民事系の振り返りを終えて刑事系までやってきました。刑事系についても予備試験論文式試験の成績は刑法C刑訴Cだったので、公法系と同じくリベンジを果たせた形です。刑事系の得点は139.67点だったので、刑法単体で70点前後の得点であるものと思われます。

 

1.答案に書いたこと

 設問1ですが、実は最初で躓きました。というのも詐欺罪で構成するとして欺罔行為の有無と占有の移転の有無の検討をどうすべきか迷ってしまい、おそらく本筋としては詐欺罪の成否の検討をする際に詐欺罪が認められないとするのであれば「欺罔行為が無い」として否定すべきであるところ、「欺罔行為はあるけど占有の移転が無いから未遂だ」というように処理してしまいました。ここは「欺罔行為は非欺罔者の処分行為に向けられていなければならない→本件では処分行為に向けられた行為ではない→詐欺罪不成立→窃盗成立」というように論を運べばよかったのですが、私の場合は詐欺未遂罪成立→窃盗罪検討→窃盗罪成立と進んでしまったので、おそらく高い評価は得られていないものと思われます(詐欺未遂罪と窃盗罪の併合罪という変な処理になりました)。しかしながら、暗証番号も「財物」として窃盗罪の客体になるのか、等を論じるとともに、構成要件については丁寧に当てはめたので、致命傷にはならなかったのでしょう。

 続いて設問2ですが、実は試験直前に刑法の短答の過去問を検討していた際に事後強盗罪の共犯についての問題で間違えていたのでその復習をした際のことが印象に残っており、かなりラッキーでした(平成27年度短答刑法設問13)。この問題を検討するまでは事後強盗罪については判例と同様の身分犯構成のみを押さえており、窃盗と脅迫(暴行)の結合犯とする立場を知らなかったので、救われた形です。まず①では、判例と同様に事後強盗罪を真正身分犯と考える立場から65条1項が適用されて共犯である乙にも事後強盗罪が成立する旨を論じました。対して②では、事後強盗罪を窃盗と脅迫の結合犯と考える立場から、本件では甲と乙の間には脅迫をする旨の現場共謀が成立したのみで窃盗については共謀前の甲の単独犯であることから、乙には脅迫罪の限度で共同正犯が成立する旨を論じました。①②の見解に対して、私見では、甲の窃盗未遂罪に該当する行為に途中から参加した乙にも窃盗未遂罪の共同正犯が成立し(乙が甲が万引きをしたと誤信したことは法定的符号説の立場から故意を阻却しない)、また脅迫行為についても現場共謀が成立していること、刑法238条の「窃盗」には「窃盗未遂犯」も含めるべきこと、「財物を得てこれを取り返されることを防ぎ」という要件も充足することを述べて、乙に事後強盗罪の共同正犯の成立を認めました。

 最後に設問3ですが、違法性阻却の話をする前にまずは丙のDに対する傷害罪の成否について客観的構成要件を淡々と当てはめて全て充足する旨認定しました。そのうえで①丙には傷害罪の故意が無い、故意があるとしても②正当防衛が成立する③緊急避難が成立する、という三点について論じました。まず①については『事例から刑法を考える』の事例⑦(p.149参照)が想起されました。強盗犯である甲と救助しようとしたDはともに「人」であるから、判例の採る法定的符号説の立場からは甲に対する暴行の故意がある以上はDに対する暴行の故意ありとされてDに対する傷害罪が成立してしまうが、むしろこの場合に同じ「人」である限度で故意を認めてしまうのは妥当ではなく、具体的符号説を採るか「襲ってくる相手と救おうとした相手は別であってその限りで法定的符号説を採るべきではない」と論じました。その説明の難点としては、前者については具体的符号説は錯誤が常に故意を阻却することになって妥当とは言いがたいこと、また後者については法定的符号説を採りながら「襲ってくる相手/救おうとした相手」を分けるべきとする理論的根拠が不明確である、という点について書きました。続いて②については、正当防衛の要件を条文に沿って挙げながら淡々と当てはめ、やはり侵害者である甲ではなくDに対して傷害の結果が生じてしまっている以上、Dに対して正当防衛を認めるのは難しいのではないかというようなことを書きました。最後に③については、同じく緊急避難の要件を条文に沿って挙げながら淡々と当てはめた上で、やはり避難行為により生じた害が避けようとした害を上回ってしまっている以上はせいぜい過剰避難が成立するにすぎない、というようなことを書きました(設問3は細部は若干記憶が曖昧ですいません)。

 

2.本試験を受けて感じたこと

 平成30年度に刑法の出題傾向に若干の変化が見られましたが、今年度の出題もその路線を継続するものであるように思います。すなわち、甲乙丙の罪責を検討せよというような簡潔な問いの下に事案の処理を求めるのではなくて、問いをより限定したうえで、理論的な側面についての説明も求めるというスタイルへの変化です。

 この傾向の変化をもって「学説についても覚えなければならない」というような声も聞かれますが、基本的には判例の立場を十分に理解したうえで事案を処理することが重要である点に変わりはないものと思われます。ただし、判例の立場にズルズルベッタリで判例の立場に対する批判的な見解は全く知りません、という状態だとおそらく今年度の設問2のような出題には対応できないものと思われますので、判例の立場に対する学説からの批判が根強いような論点については学説にも最低限の目配せをする必要があります。

 私の場合は判例百選の解説ページも全て読んでいたのである程度は学説の立場も目にしていました。また、何より愛用した演習書である『事例から刑法を考える』が学説の立場も含めかなり高度な内容を取り扱っていたので、今年度の司法試験でも助けられました。『事例から刑法を考える』は理論的な側面についてもかなり高度な内容を扱っているように思いますので、私はこれ一冊をやっておけば刑法の対策は十分であるように感じました(もっとも、一読して理解できない箇所は多数あったので、3回4回と繰り返し読んで理解を深めることが必要でしたが)。

 刑法については典型的事例について構成要件や違法性阻却事由の要件の摘示→当てはめ、を確実にできるようにしておき、判例の立場と学説の立場の対立があるような論点についてはそれぞれの主張やその理論的論拠も含めてざっくりと整理しておく必要があるように思います。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その5)【民訴】

 さて民事系最後の民訴ですが、全科目の中で唯一、試験後に「やっちまったかあ・・・」という感想を抱いたのが民訴でした。言い訳めいてしまいますが、前日にあまり寝付きが良くなかったので集中力的にも厳しくなっていたことに加え、設問1の出だしから分からなくて出鼻をくじかれたのもあり、最後まで地に足が付いていない感覚のまま試験時間の終了を迎えてしまいました。とはいえA評価で踏みとどまったのは設問2,3で最低限のことは書けていたからだと思います。予想得点は60~65点程度です。

 

1.答案に書いたこと

 先ず問題の設問1ですが、管轄は全くのノーマークでした。予備試験の口述試験の対策の過程で若干は勉強しましたが、設問を見た瞬間「うわ、無理だ」となりました。が、何かしら正答っぽいことを書かないといけないので捻りだしましたが、課題(1)については「契約の解除によって管轄の合意も遡及的に消滅するから云々」ということを書いて見事明後日の方向に行きました(試験後に「付加的管轄合意」という概念を初めて知りました)。ただ、課題(2)の方は何とか会話文から出題趣旨を想像して、「法17条の要件を充足するならば移送が認められる」として「当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」という要件について問題文の事情を拾ってできる限り丁寧に当てはめることが出来たので、ノーマークの分野から出題されても出題趣旨を頑張って推測するのが大事だと感じました。

 続いて設問2ですが、これもパッと見は何が正解筋か分かりませんでした。とはいえ会話を読むと元の請求と変更後の請求のそれぞれにつき裁判上の自白の成立の有無を検討して云々すればいいのだなというのは分かったので、先ずは裁判上の自白の意義について弁論主義の趣旨に遡って論じた上で、自白が成立するのは主要事実についてのみであることを述べました。そして予備試験時に勉強した要件事実を思い出しながら、④の事実は元の請求においては主要事実であるから裁判上の自白が成立するけれども変更後の請求においては間接事実であるから裁判上の自白が成立しない旨論じました。その上で、変更後の請求それ自体としてみると間接事実について裁判上の自白は成立しないから撤回が許されそうだけれども、元の請求で裁判上の自白が成立してしまっており問題文で「元の請求についての訴訟資料は,特に援用がなくとも追加された請求についての訴訟資料になる」とされているのであるから、原則として裁判上の自白の撤回は許されない旨書きました。一方で、自白の撤回が制限されるのは相手方の信頼を保護すべきである点に求められるところ、本件でYが裁判上の自白を撤回せざるを得なくなったのはは「Xが100万円という高額の請求を後から追加した」というX側の事情によるもので、Xは自ら請求を追加したのである以上、その対応としてYが認否を変えることを甘受すべきで、ここではXの信頼の保護よりもYの訴訟追行の自由を優先すべきであるから、裁判上の自白の撤回は例外として認められる、と論じました。

 最後に設問3ですが、これも正直言って全然思っていたのとは違いました(どうせ既判力絡みのネタが出題されるんでしょう?と思ってました)。ですが、問題文に文書のプライバシーが云々と書いてあるので「ああこれは自己利用文書の話をすればいいのだな」というのは分かりました。ですので、220条4号ニを引用して、当てはめを頑張ろうと考えました。自己利用文書の意義についての規範は正確には思い出せなかったのですが、①外部への開示を想定した文書なのか②開示により損なわれる文書利用者の利益の内容・性質を勘案して判断すべき、というようにざっくりと規範を立てて当てはめを書きました。①については、本件日記の性質(業務で毎日書かなければ日誌ではなく個人的な日記であり、外部への開示を想定して書かれたものではないこと)を書き、②については、日記は通常他人に見られることを想定して書いていないからプライバシーという重大な利益が損なわれるのではないか、とはいえ本件日記の記載内容はキャンピングカーの設計の不備についての記載で、要保護性の高い内容とは言いがたいのではないか、日記を書いたTは故人であり故人のプライバシーの要保護性は生者と比較すると一定程度後退するのではないか、とはいえ日記作成者の近親者である妻が開示を拒んでいるということはやはりプライバシー保護の要請が高いのではないか、といったことを書きました。

 

2.本試験を受けて感じたこと

 先ず試験内容とは関係の無い話ですが、個人的に一番体力的に辛いなと感じたのは民訴の試験中でした。前日に選択科目・憲法行政法と受けて、当日も民法会社法で頭をフル回転させていたので、疲れが一気に来た形で試験時間中に若干ボーッとしました。司法試験は体力的にそもそもきついのと、緊張やホテル泊といった状況で十分に疲労回復できるとは限らないこと等から、体力面のマネージメントは重要であるものの難しいなと感じました。とはいえ試験時間中は火事場の何とやらで何とかなるのもまた事実なので、仮に寝不足等でしんどい状況でも試験会場に着いてしまえば切り替えるのが大事だと思います(結果として私の民訴も何とかなっていたので)。

 さて、民訴についてですが、最後まで対策が最も難しい科目だと思っていました。私は判例百選と事例演習民事訴訟法を使っていましたが、事例演習民事訴訟法も司法試験の形式に近い演習書とは言いがたく、正直言って民訴に限っては過去問を検討するのが最も役に立ったかもしれません。処分権主義、弁論主義、既判力、複数当事者訴訟等々の重要概念については定義をきちんと理解するとともに、司法試験の再現答案において成績優秀者がそれらの概念がどのように活用しているのかを確認することが最も重要だと思います。それとともに、民訴では判例の射程について直接的に問われる形の出題もありますので、他の科目以上に判例集を用いた学習も一方で重要です(私の場合は前述のとおり判例百選を使いました)。

 また、民訴では設問の前に必ず会話が掲載されるので、この会話の誘導に乗る形で答案を書くことが絶対的に重要です。過去問を検討する際に会話を読んでなお何を書けばよいか分からない場合には基礎的な理解が不足している可能性が高いように思われますので、過去問を見て「会話を読んでも何が要求されてるのか見当もつかない」という場合はもう一度基本書の該当箇所の記載に戻って基本的な理解の確認に努めるのが良いでしょう。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その4)【商法】

 続いて商法です。設問1の比較の問題だけは何を問いたいのかが分からず的外れな比較になってしまいましたが、周りもあまり出来ていないものと思料されるので、ここでは大きな差がつかなかったものと判断されます。設問2と設問3はそれなりに処理できたように思われるので、おそらく70~75点程度の点数が付いたものと思われます。

 

1.答案に書いたこと

 まず設問1ですが、これは正直できませんでした。もちろん、臨時株主総会を自ら招集する場合(297条)との定時株主総会の開催に当たり株主提案権を行使する場合(303条)のそれぞれについて条文を挙げて手続を説明することはしましたが、比較の際に基準日の話を延々としてしまい、おそらく題意を外してしまっているものと思われます。もっとも、前述のとおり設問1の題意は多くの受験生が正確に捉えられなかったでしょうから、ここで致命的なダメージは負わなかったようです。

 設問2についてはブルドックソース事件という具体的事件名までは思い出せませんでしたが「あーあの247条を類推適用した判例か」ということはすぐに分かりましたので、277条の新株予約権無償割当の場合も247条の趣旨が妥当することを論じた上で、1号・2号それぞれについて分けて検討しました。

 1号違反については「法令」に違反するかにつき、具体的に109条1項を挙げて株主平等原則に違反するかを論じました。すなわち、株主平等原則は株主としての資格における法律関係については平等でなければならない旨定めているところ、新株予約権を取締役会の決議により取得する場合の対価は上記法律関係に該当するため株主間で平等でなければならないが、本件では適格者の場合に普通株式1株を与えるのに対して非適格者の場合は1円しか与えないというのが平等ではないのではないかという論点です。この点、問題文を頑張って読みましたが「1株と1円とで価値が違うのかどうか」が分からず(株価が書いてなかったように思いました)、とはいうものの「資本金が20億円あるのに1株1円ということは無いだろう」と考え、結論として対価の経済的価値が著しく不均衡であり平等とはいえないとして109条1項違反すなわち1号違反であると認定しました。

 2号違反についてはまず「著しく不公正な方法」という文言は抽象的なのでその意義を明らかにする必要がありますが、まず主要目的ルールの規範を定立のうえ、本件では新株予約権行使の際の払込額が1円であることから資金調達目的が主目的とはいえないこと、そして新株予約権の発行(無償割当て)は取締役会の決議により株主構成を変化させる行為であるところ、株主によって選任される取締役が自らにとって都合の悪い株主に不利になるように新株予約権を発行(無償割当て)することは株式会社の権限分配秩序を侵すものであるから、原則として「著しく不公正な方法」に該当する旨論じました。とはいえ、株式会社の価値を支配しその在り方を決めるのは株主であり、敵対的買収者が現れたとして会社の価値を毀損するものかどうかの判断は究極的には株主に委ねられるべきであるから、取締役会の決議で決定するのではなく、株主に適切に情報が開示され適正な手続が踏まれたうえで株主総会新株予約権無償割当てが決議されたのであれば、「著しく不公正な方法」に当たらない旨論じました。そして、本件では適切に情報が開示され適正な手続が踏まれたうえで株主総会において株主が賛成しているのであるから「著しく不公正な方法」には当たらないと結論付けました。

 最後に設問3ですが、設問2にかなり力を入れて書いたため、設問3を書き始める頃には残り時間が25分程度 だったのである程度簡潔にまとめました。骨格としては、①決議1の効力について、株主総会が会社の最高意思決定機関であることに鑑みると取締役会の権限を定款(株主の賛成)により株主総会の権限とすることは適法であるから、決議1は有効である。そして任務懈怠について、②会社法の権限分配秩序に鑑みるに原則として取締役は株主総会が適法に決議した事項に従って職務を遂行する必要がある③もっとも、株主が経営に必ずしも明るいわけでは無いことから、株主総会決議に従うと会社に損害が発生することが明らかに見込まれるような例外的な場合には、会社経営のプロである取締役は会社に対して負う善管注意義務として自らその是非を検討のうえ業務遂行の意思決定をする義務を負うと解すべきである。④本件では確かに株主総会決議は適法に成立していえるが、「P倉庫を売却すると,競合他社に多数の顧客を奪われるなど,50億円を下らない損害が甲社に生ずることが見込まれた。他方で,P倉庫の近隣の不動産価格が下落する兆候は,うかがわれなかった。」のであるから、株主総会決議に従ってP倉庫を売却すると会社に損害が発生することが明らかに見込まれる。にもかかわらず自らその是非を検討せずに漫然と株主総会決議に従ったのであるから、「任務懈怠」がある。⑤そして、最後に損害の発生及び数額、因果関係、及び無過失による免責は認められないことについて簡潔に述べました。

 

2.本試験を受けて感じたこと

 商法についても判例学習が重要であることは言うまでもないのですが、本試験を受けて感じたのは、設問1は判例どうこうという問題ではないし、設問2もブルドックソース事件の事案処理を正確に覚えてたわけじゃないし、設問3は現場思考型の問題であるように思われます。例えば、設問2であれば、247条類推適用については判例を知っていたからこそ書けましたが、1号・2号それぞれへの当てはめの過程は問題文の事情をなるべく使えるように現場で考えました(判例の規範はぼんやりと知っていましたが)。設問3であれば任務懈怠責任を認定する際の構造について基礎的な理解を有していることは重要ですが、「取締役は株主総会決議に絶対従う必要があるの?それとも決議に反して自ら経営判断していいの?」というのが設問者の問題意識なんだろうなというように自分は理解した上で、本件事案で会社に多額の損害が生じていることを踏まえると「やっぱ株主総会決議に盲従してたら取締役は責任を逃れられるってのは結論が妥当じゃないよね」と考え、取締役の責任を肯定する方向で事案を処理しました。

 何が言いたいかというと、会社法では例年問題文に多くの事実関係が記載されており、当然ながら作問者はこれらの事実関係を積極方向・消極方向双方で当てはめにおいて十二分に使ってくれることを期待しているものと考えられます。そうすると、あまり「規範定立を判例の通りにやろう」と拘るのではなく、現場で事実関係から逆算して自ら規範定立するような力も問われているように思われます。もちろん会社法の基本的な条文及びその趣旨を理解しておくことが必要ですが、いったん基礎的な理解が得られてしまえば早々に演習書(私は『事例で考える会社法』を愛用していました)を読んで、問題文のどの事実関係をどのように当てはめで使うのかにフォーカスして学習するのが良いように思います。私の感覚では、商法は他の科目よりも規範定立の自由度が高い(条文の適用が適切にできることは当然の前提ですが、それが出来ていれば判例の枠組みから離れてもある程度許される)ように思われますので、学習の際は早い段階から当てはめを如何に説得的に行うかに意識を向けてみるのが肝要かもしれません。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その3)【民法】

 さて民事系科目のトップバッターは民法です。設問1はそれなりに出来たと思ったのですが、設問2と設問3は自分の答案が正解筋なのかどうか書きながら今一つ自信が持てませんでした。民事系科目は3つあわせて199.77点でしたが、おそらく65点程度の得点が付いているものと思われます。

 

1.答案に書いたこと

 設問1については、問題文を見て「ああ、これは『事例から民法を考える』にもあった請負契約目的物の所有権の帰属についての話だな。その後民法717条1項に当てはめればいいのだな」とすぐに方針が立ちました。まずは「物権法の世界の理屈でいくと材料を提供した人に所有権が帰属すると考えるべきであるから材料提供者に所有権が帰属するのが原則→本件では請負人に帰属すると考えるのが原則。しかし、請負契約の定めにより注文者が代金の大部分を既に支払っているのであれば契約法により当該原則は修正され、注文者に所有権が帰属する旨の特約があるものと考えるべきである→本件では代金総額の8割を支払っているのだから注文者に所有権が原始的に帰属している」旨を書きました。そのうえで、「設置」の「瑕疵」があるかについて「瑕疵」の意義を「工作物が通常有すべき安全性を備えていないこと」と解して本件では瑕疵がある旨を認定し、損害の発生、因果関係も認められることを簡潔に認定しました。また、但し書きの「必要な注意をした」といえるかについても当てはめをしたのですが、この点については何を書いたか正確には覚えていません(当該建築資材は多くの新築建物に使われていて、しかもたまたま強度不足だったいうアンラッキーな事態なので占有者に帰責するのは酷だともいえるが、かといって所有者に帰責するのも筋が違うので、そうするとやはり必要な材料を自ら調達した占有者(請負人)は必要な注意をしたとはいえず占有者に帰責すべきで、所有者は責任を負わない、占有者は本件資材の製造業者に求償することで対応すべき、というようなことをゴチャゴチャと書いた覚えがあります)。

 設問2については、一目で難しいなと思いましたが、基礎的な理解を示すことが重要だと思い、つらつらと思考過程を書きました。まず㋐を根拠づけるためには、賃貸人の地位の移転について論ずる必要があるため、契約上の地位の移転についての原則論(両当事者の合意が無いと移転しない)を述べたうえで、賃貸借契約については賃貸人の地位の移転を認めた方が賃借人にとっても有利であることから、建物所有権の移転+登記の移転により賃貸人の地位が移転し第三者にも対抗できる旨記載しました。そして、(このへんは自信無かったのですが)Fが譲り受けた将来債権はあくまでDが本件建物の所有者である限りにおいて発生すると考えるべきものであり、建物所有権がDからHに移転した以上は売買目的物である賃料債権が不発生になったものと考えるべきであるからEが当然に賃料の支払を受けることが出来るというようなことを書きました。

 次に㋑を根拠づけるためには将来債権譲渡の有効性について論ずる必要があるため、債権の特定性があって公序良俗に反するような事情も無いことから有効である旨簡潔に書き、そのうえで第三者対抗要件を備えていることにも触れました。そして、㋐の主張とは反対に、将来債権譲渡契約においては契約時点において将来債権の帰属が債権譲受人に移転していると考えるべきであり、しかもこれは第三者対抗要件を備えているのであるから、後から建物所有権を譲り受けた譲受人は自己への賃料債権の帰属を対抗できない。したがって、Fが賃料の支払を受けることができる、というようなことを書きました。

 最後にいずれの見解が正当であるかについてですが、ここは私見を書くべきところですので、㋐と㋑の主張を前提に裁判官の立場になったつもりで論じましたが、正直何を書いたかあまり覚えていません(議論が噛み合っているのか自信もなかったです)。信義則を用いた議論を展開した記憶はあるのですが……

 設問3については、前半部分でD,G,Hの間の契約が「第三者のためにする契約」であることを延々認定したうえで、最終的に錯誤の話を論じました。錯誤については「①動機の錯誤も「錯誤」に含まれるか②動機が表示されて法律行為の内容になったといえるか③表意者に重過失がないといえるか」について淡々と当てはめました。前半部分は書いている最中は自信をもって書いていたのですが、出題の趣旨を見る限り「第三者のためにする契約」であることを認定する実益は無さそうですので、余事記載と扱われているのかなと思います。

 

2.本試験を受けて感じたこと

 民法については、事案を適切に把握して題意を読み取ることが難しいなと改めて感じました。設問2にしても設問3にしても登場人物がそれなりに多く、利益衡量を行う上で各当事者間の関係を問題文からすばやく把握・整理しなければならず、正直私も本試験の時間中には腰を落ち着けて考える余裕はなく、何が正解筋なのか自分の中で自信を持てませんでした。

 とはいえ、設問2にしても賃貸人の地位の移転についての議論や将来債権譲渡契約の有効性といった基本的な論点については、理解していることを示すために丁寧に書きました。また、設問3にしても、錯誤の処理の仕方について基礎的な理解があるということが伝わるように条文の文言に沿って丁寧に解釈し、一つ一つの要件を充足するかについて順次検討しました。

 本試験の厳しい時間の制約を考えると、例えば設問2のように㋐の立場、㋑の立場、私見と3つの立場から論ぜよと言われて、即座に議論の見通しを立てるのは難しいと考えられます(実際、私も書きながら考えるというような感じで、書く前に全体の見通し・構成は立てられませんでした。おそらく私の答案の私見も何を言っているのか怪しいと思います)。あくまで相対評価の試験の中で不合格にならないためには、どれだけ基礎的な理解を有しているかを採点者に丁寧に示すことが重要であると思われますので、民法においては、問題の所在を示したうえで一つ一つの要件を丁寧に検討するという姿勢で試験に臨むことが肝要であるといえるでしょう。そして、一つ一つの要件を漏らさず検討する、という意味では、要件事実的思考を身につけることが遠回りのようで近道であるように思います。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その2)【行政法】

 続いて行政法です。こちらもおそらく70~75点程度の点数は付いているものと思われる科目です。

 

1.答案に書いたこと

 設問1については、違法性の承継が認められるかについて原則論(法的安定性を重視すべきであるから違法性は個々の処分毎に判断すべきであり違法性の承継は原則として認められない)を書いたうえ、例外論として①法的効果の同一性(先行の処分と後行の処分が、結合して一つの法律効果を実現させるものであるか)と②争う機会の有無(被処分者に争う機会が与えられておらず違法性の承継を認めないと酷か)の2つの要件を充足すれば違法性の承継が認められるという法解釈を示しました。当てはめについては詳細は覚えていないのですが、なるべく問題文の条文を多く引きながら①も②も認められないから本件では違法性の承継は認められない旨書きました。

 設問1は規範定立(法解釈)では多くの受験者が正確に書けるものと思ったので、当てはめを充実させることを意識しました。

 設問2(1)については、争点訴訟ではなく実質的当事者訴訟と書いてしまったのですが、「無効確認訴訟の補充性要件について、当事者救済の見地から狭く解するべきではなく、実質的当事者訴訟と無効確認訴訟を比較して、後者の方がより直接的で適切な救済手段であると言える場合には補充性要件を満たし訴訟要件を満たす」というような規範を端的に示したうえで、設問1と同じくなるべく多くの条文を引用しながら当てはめを厚く書くように意識しました。具体的には、本件権利取得裁決は多数の関係者に影響を及ぼす処分であって、実質的当事者訴訟の場合は紛争当事者の間で相対的な解決をもたらすに過ぎないのに対し、無効確認訴訟の場合は対世効を有しており関係者の間で一挙に紛争を解決することが出来ることから、無効確認訴訟の方が直接的で適切な救済手段といえる」というようなことを書きました。39条で事業認定の告示があった日から1年以内に裁決をすることが要求されていることから、一度無効確認訴訟で無効が確定すれば再度の裁決が行われることを防ぐことが出来るという点についても言及しました。

 設問2(1)についても、設問1と同様に規範定立(法解釈)では多くの受験者が正確に書けるものと思ったので、当てはめを充実させることを意識しました。

 設問2(3)については、お決まりの裁量論からの出題でしたので、まずは裁量の有無を条文の文言+処分の性質から論証して、その後に裁量権の逸脱濫用があるかについて判断過程審査の形で規範定立しました。当てはめにおいては、問題文にわざわざ①②③と分けて書いてあったので、それを流用して①②③の3つに分けて反論も含め記載して裁量権の逸脱濫用がある旨書きました。

 設問2(3)については定番の出題であったため、当てはめで書き負けないように出来る限り問題文の事情を書き写して、反論もなるべく説得的になるように書いたうえでそれに反駁を加えるということを意識しました。

 

2.本試験を受けて感じたこと

 原告適格や処分性といった定番の分野から出題されず、特に設問2(1)の無効確認訴訟の補充性要件について検討させる出題はやや変化球気味かなと感じました。また、これまでは2時間という時間の制約に比してやや処理量が多すぎるのではないかという印象がありましたが、今年は問題数が減少したこともあってか、試験を受けている際も比較的余裕をもって書き終えることが出来ました(もっとも、来年以降も問題数を少なめに維持するのかは分かりませんが)。

 行政法については、規範定立(法解釈)の面ではあまり差がつかず、当てはめで如何に問題文の事情を上手く使えるかで勝負が決まる科目だと思います。特に誘導文が比較的丁寧に誘導してくれるので、必ず誘導文に乗る形で答案を書きあげる必要があります。こうした科目特性を踏まえると、規範定立(法解釈)については勝負の土俵に上がる前提として十分に理解した上で、如何に問題文の事情をふんだんに盛り込んで上手く使うかについて、日頃の学習においても常に意識することが重要であると思います。したがって、判例学習においても規範部分のみならず当てはめがどのような形でなされているのかに注目して学習することが肝要であるでしょう。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その1)【憲法】

 

 予備試験では憲法C行政法Eだったので、リベンジを果たせた形の公法系科目です。私にとっては意外でしたが、結果的に系別で見て最も出来が良かったことになります。憲法単体で70~75点程度の得点だと思われます。それでは以下に雑感を記載します。

 

1.答案に書いたこと

 立法措置①は何を書いたのか細かくは覚えていません。自己の意見をSNSで発信する自由(21条1項)について自己実現・自己統治の価値を有する重要な権利であり、その真偽の判定も微妙なものであるから規制をするにしても慎重な検討がある旨記載のうえ、虚偽表現規制について「公共の利害に関する事実」という限定だけでは現行刑法や公職選挙法がさらに限定を付しているのに比して規制対象が過度に広範であり違憲である、仮に過度に広範であるとはいえないとしても「虚偽の表現が流布されることによる社会的混乱を防止する」という立法目的が主観的・抽象的であるにもかかわらず一律禁止という強度な規制手段を用いることは目的と手段の均衡を欠き違憲である、というようなことを書きました。

 立方措置②については、SNS事業者が「SNS利用者にとっての表現のプラットフォームを提供する自由」(21条1項)を有するという点につき、博多駅事件を援用(報道の自由は知る権利に奉仕するから重要であるというくだりとパラレルに考える)したうえで、そのような自由は営業の自由(22条1項)として保障されるにすぎないという見解への反論を記載しました。そのうえで、選挙の公正を守るという目的について、戸別訪問事件における伊藤補足意見(いわゆる選挙ルール論)を論じた上で、これを採らない、すなわち審査基準を緩やかにするべきではないと論じました。そのうえで、「SNS利用者にとっての表現のプラットフォームを提供する自由」の重要性に鑑みても「選挙の公正を守る」という立法目的もまた重要であるから、「選挙運動の期間中及び選挙の当日」に限定して「選挙の公正が著しく害されるおそれがあることが明白な表現」のみを規制対象とするのであれば、目的と手段の均衡を欠くとはいえず合憲である、というようなことを書きました。

 最後に、問題文の「フェイク・ニュース規制委員会(法案第15条,以下「委員会」という。)は,SNS事業者に対し,当該表現を削除するように命令することができ,
SNS事業者がこの命令に違反した場合には,処罰されることとなる(法案第9条第2項,第26条)。この委員会の命令については,公益上緊急に対応する必要があることが明らかであるとして,行政手続法の定める事前手続は不要であるとされる(法案第20条)。」という点について、成田新法事件の判断基準を援用した上で、適正手続とはいえず31条に反し違憲である旨をサラッと書きました。

 

2.本試験を受けて感じたこと

 今年度も「あなた自身の意見を述べなさい」という出題形式でしたが、「その際,A省からは,参考とすべき判例があれば,それを踏まえて論じるように,そして,判例の立場に問題があると考える場合には,そのことについても論じるように求められている。また,当然ながら,この立法措置のどの部分が,いかなる憲法上の権利との関係で問題になり得るのかを明確にする必要があるし,自己の見解と異なる立場に対して反論する必要があると考える場合は,それについても論じる必要がある。」という条件も課されていました。

 したがって、上記問題文の条件に沿うように解答する必要がありますが、私の場合は判例への言及について、主に①博多駅事件の援用②戸別訪問事件の伊藤補足意見への反論③成田新法事件の援用という3つを答案に明示的に記載しました。また、自己の見解と異なる立場への反論としては「SNS事業者の自由は営業の自由として保障されるにすぎない」という見解を論じ、それに対して反論を加えました。

 憲法単独で何点付いたかは正確には分かりませんが、低くとも70点程度は付いているものと思われるので、上記の記載が出題の趣旨に沿うものとしてそれなりに評価されたものと思料されます。仮に来年以降もこうした出題のされ方が続くのであれば、当然ながら受験生の対策もこれまで以上に進んでいくものと思われますので、判例の立場に適切に言及すること及び異なる立場への反論を適切に行うことが高得点を取るうえで必須になるのかもしれません。

 私は演習書としては『憲法演習ノート』1冊を繰り返し読むようにしていました。また、判例百選も繰り返し読むようにしていました。演習書を読むにしても判例を読むにしても、規範のみを暗記しようとするのではなく「どういった事案で裁判所においてどのような判断が下されたのか」を理解するよう意識し、そのうえで「問題文の事案とどの判例の事案が最も近そうか」「問題文の事案と判例の事案でどの点が異なるのか」といった点について注意しつつ、学習を進めていくことが必要になるものと考えられます。前者については判例百選等を用いて正確に理解するようにし、後者については何らかの演習書を用いながらいわゆる「判例の射程」を意識する練習をすることになるのでしょう。