社会人司法試験受験生の雑感

司法試験(&予備試験)についての雑感を残すためのブログです。平成30年予備試験と令和元年司法試験を受験しての雑感を残しています。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その7)【刑訴】

 いよいよ選択科目を除けば最後になりましたが、刑訴です。刑訴は予備試験時はそこそこ書けたなあと試験後に思ったもののC評価だったのでリベンジを期して挑んだのですが、結果A評価だったので嬉しいです。刑法と同じく70点前後の得点が付いているものと思われます。

 

1.答案に書いたこと

 問題文を一目見て「資料に表まで付いてるし、長いよ・・・」という嫌な印象を受けましたが、問題文に「異なる結論を導く理論構成を想定し~」と書いてあったので、「別件基準説と本件基準説で書いて結論を変えれば良いのね!」という方針はすぐにたち、事前に問題文の事情をどう当てはめに使うかを考えだすと時間切れになりそうだと思ったので書きながら考えることにしてすぐに書き始めました。実体喪失説とかも古江本で目にはしていたので一瞬頭によぎったのですが、いわゆる普通の別件基準説と本件基準説しか書ける自信が無かったので冒険はしませんでした。

 先ずは自説として別件基準説の定義を書き、別件基準説においては別件の身柄拘束自体の適法性を検討して適法であれば、本件の取調べの適法性については余罪取調べの問題として処理するという標準的な流れで書きました。①逮捕の適法性②勾留の適法性③勾留期間の延長の適法性→全て適法なので④余罪取調べの適法性→これも適法なので結論適法、という結論です。自分の理解を示すために、それぞれ根拠条文を示したうえで(逮捕については刑訴規則143条の3も示しました)一つ一つの要件を提示したうえで当てはめました。余罪取調べについては学説上も対立があるところですが、事件単位の原則による拘束は受けるという説に簡潔に反論を述べたうえで任意捜査としてであれば別件での身柄拘束中も本件目的の取調べ可能という立場を提示しました(適法という結論にしたかったので)。逮捕勾留周りの条文や手続の流れは予備試験の口述試験の対策をする過程で整理出来ていたので、思い出しながら書いた形です。

  続いて異なる理論構成ということで、本件基準説の定義を書き、本件基準説においては別件の身柄拘束手続がそれ自体として適法であっても身柄拘束の主目的が本件の捜査にある場合は事件単位の原則を潜脱するものとして許されない旨述べて、主目的が別件の捜査にあるかは捜査官の内面に関わり判断困難であるから事後的に捜査の具体的経過や捜査官の主観等を総合して判断すべきであるとして、問題文の事情を拾いながら違法という結論を導きました。そしてこれを採用しない理由については①令状発布の時点で裁判官が捜査の主目的が本件にあるのか否かを判断することは非常に困難②別件の身柄拘束自体を見れば適法であるのに事後的に捜査目的を考慮してこれを違法とするのは行き過ぎで余罪取調べの問題として判断すれば足りる、というようなことを簡潔に書きました。

 実は別件逮捕の論点は司法試験を受ける直前までイマイチしっくり理解出来ていなかったのですが、このままではマズいということで直前期に古江本の該当箇所と堀江慎司先生の書いた判例百選の「16.別件逮捕・勾留と余罪取調べ」を読んでいたのが良かったな、という出題でした。当てはめは答案を書きながら問題文からザーッと抜き書きするような形で書いたので詳細は覚えていないのですが、拾えそうな事情はとりあえず拾った上で必ず自分の評価を加えるようにしていました。結局、資料1の表はほとんど無視する形になってしまったのですが得点は悪くなかったので、資料1を上手く使えていれば加点要素にはなるものの合否には影響なかったように思います。

  設問2については公判前整理手続と訴因変更の合わせ技といった問題ですが、公判前整理手続については予備試験の実務基礎科目と口述試験の対策できちんと勉強したので迷いなく書けました。訴因変更についても直前まで理解が怪しかったので、過去問や判例百選を読んでGWに理解を整理していたのが良かったように思います。

 先ず公判前整理手続終了後の証拠調べ請求が制限されている(316条の32)点について言及したうえで、手続終了後の訴因変更の可否については明文の定めがないからどうしましょうかという流れで論点設定しました。そして、316条の3を引いて公判前整理手続の目的を書いたうえで、316条の5第2号において「訴因又は罰条の......変更を許すこと」が公判前整理手続において行うこととして明記されていることに照らすと、手続終了後に自由に訴因変更を許すと制度目的に反するうえ手続の実効性を害するから「やむを得ない事由によって公判前手続終了前には訴因変更をすることができなかった」という場合でない限り、原則として手続終了後の訴因変更は許されない旨書きました。そして、本件では公判期日において被告人が突如供述を翻したことからこれに対応するために訴因変更せざるを得なかったもので、公判前整理手続において訴因変更すべきとはいえないから「やむを得ない事由」があるといえ、訴因変更は許される旨書きました。

 最後に訴因変更の論点については時間も無かったのであっさりと書きました。訴因変更の要否について、構成要件が変わっちゃうので審判対象自体が異なってくるから訴因変更は当然に必要である旨一応述べたうえで、公訴事実の同一性(312条1項)について、基本的事実関係を同じくするから訴因変更は許される旨を書きました。

 

 2.本試験を受けて感じたこと

 実は、試験終了後に「ミスなく手堅くまとめることができたな」と最も感じた科目が刑事訴訟法でした。予備試験の論文(刑事実務基礎)と口述(刑事)の過程で捜査や公判前整理手続周りの条文操作にはかなり習熟できたように思いますので、予備試験と司法試験との連続性を感じた科目でもあります。

 今年度においては設問1で「異なる結論を導く理論構成を想定し」という条件があり、刑法と同じく傾向変化と捉えられているような向きもあるようですが、どちらかというと捜査分野については従前通りに正確な条文操作と問題文の事実の摘示及び自分なりの評価の提示を淡々と繰り返すことが大事だと思います。私の答案でも、別件基準説の記述については逮捕・勾留・勾留延長・余罪取調べとひたすら条文を挙げて要件を提示して問題文の事実を拾ってきて評価しただけといえばそうなのですが、こういった基本的な部分の精度で案外差が付いているものと思われます。

 設問2の公判前整理手続ですが、予備試験の実務基礎科目では公判前整理手続からの出題が必ずといって良いほどあるので、予備試験受験生は学習の過程でかなり詳しく押さえているものと考えられます。公判前整理手続の重要性を考えると今後も出題が継続されることが想定されるので、条文操作をきちんとできるようにしておくのが重要でしょう。また、判例百選においても54-58までの5つが公判前整理手続に関する判例ですので、公判前整理手続に関する主要な判例は十分に理解しておく必要があると思います(逆に、一度理解してしまえば、解釈論が難しいといった点は特に無いので、アドバンテージになると思います)。

 刑事系科目は民事系科目のように「困ったら利益衡量で妥当な結論を示して逃げよう」といった手が通じにくい科目であり、規範定立(法解釈)はある程度定型的な書き方があるように思いますので、勝負の土俵に立つ前提として条文操作及び法解釈については十分に習熟したうえで、演習書や判例を読みながら事実の拾い方や評価の仕方を意識して勉強する必要がありそうです。