社会人司法試験受験生の雑感

司法試験(&予備試験)についての雑感を残すためのブログです。平成30年予備試験と令和元年司法試験を受験しての雑感を残しています。

令和元年司法試験論文式試験の雑感(その6)【刑法】

 いよいよ公法系と民事系の振り返りを終えて刑事系までやってきました。刑事系についても予備試験論文式試験の成績は刑法C刑訴Cだったので、公法系と同じくリベンジを果たせた形です。刑事系の得点は139.67点だったので、刑法単体で70点前後の得点であるものと思われます。

 

1.答案に書いたこと

 設問1ですが、実は最初で躓きました。というのも詐欺罪で構成するとして欺罔行為の有無と占有の移転の有無の検討をどうすべきか迷ってしまい、おそらく本筋としては詐欺罪の成否の検討をする際に詐欺罪が認められないとするのであれば「欺罔行為が無い」として否定すべきであるところ、「欺罔行為はあるけど占有の移転が無いから未遂だ」というように処理してしまいました。ここは「欺罔行為は非欺罔者の処分行為に向けられていなければならない→本件では処分行為に向けられた行為ではない→詐欺罪不成立→窃盗成立」というように論を運べばよかったのですが、私の場合は詐欺未遂罪成立→窃盗罪検討→窃盗罪成立と進んでしまったので、おそらく高い評価は得られていないものと思われます(詐欺未遂罪と窃盗罪の併合罪という変な処理になりました)。しかしながら、暗証番号も「財物」として窃盗罪の客体になるのか、等を論じるとともに、構成要件については丁寧に当てはめたので、致命傷にはならなかったのでしょう。

 続いて設問2ですが、実は試験直前に刑法の短答の過去問を検討していた際に事後強盗罪の共犯についての問題で間違えていたのでその復習をした際のことが印象に残っており、かなりラッキーでした(平成27年度短答刑法設問13)。この問題を検討するまでは事後強盗罪については判例と同様の身分犯構成のみを押さえており、窃盗と脅迫(暴行)の結合犯とする立場を知らなかったので、救われた形です。まず①では、判例と同様に事後強盗罪を真正身分犯と考える立場から65条1項が適用されて共犯である乙にも事後強盗罪が成立する旨を論じました。対して②では、事後強盗罪を窃盗と脅迫の結合犯と考える立場から、本件では甲と乙の間には脅迫をする旨の現場共謀が成立したのみで窃盗については共謀前の甲の単独犯であることから、乙には脅迫罪の限度で共同正犯が成立する旨を論じました。①②の見解に対して、私見では、甲の窃盗未遂罪に該当する行為に途中から参加した乙にも窃盗未遂罪の共同正犯が成立し(乙が甲が万引きをしたと誤信したことは法定的符号説の立場から故意を阻却しない)、また脅迫行為についても現場共謀が成立していること、刑法238条の「窃盗」には「窃盗未遂犯」も含めるべきこと、「財物を得てこれを取り返されることを防ぎ」という要件も充足することを述べて、乙に事後強盗罪の共同正犯の成立を認めました。

 最後に設問3ですが、違法性阻却の話をする前にまずは丙のDに対する傷害罪の成否について客観的構成要件を淡々と当てはめて全て充足する旨認定しました。そのうえで①丙には傷害罪の故意が無い、故意があるとしても②正当防衛が成立する③緊急避難が成立する、という三点について論じました。まず①については『事例から刑法を考える』の事例⑦(p.149参照)が想起されました。強盗犯である甲と救助しようとしたDはともに「人」であるから、判例の採る法定的符号説の立場からは甲に対する暴行の故意がある以上はDに対する暴行の故意ありとされてDに対する傷害罪が成立してしまうが、むしろこの場合に同じ「人」である限度で故意を認めてしまうのは妥当ではなく、具体的符号説を採るか「襲ってくる相手と救おうとした相手は別であってその限りで法定的符号説を採るべきではない」と論じました。その説明の難点としては、前者については具体的符号説は錯誤が常に故意を阻却することになって妥当とは言いがたいこと、また後者については法定的符号説を採りながら「襲ってくる相手/救おうとした相手」を分けるべきとする理論的根拠が不明確である、という点について書きました。続いて②については、正当防衛の要件を条文に沿って挙げながら淡々と当てはめ、やはり侵害者である甲ではなくDに対して傷害の結果が生じてしまっている以上、Dに対して正当防衛を認めるのは難しいのではないかというようなことを書きました。最後に③については、同じく緊急避難の要件を条文に沿って挙げながら淡々と当てはめた上で、やはり避難行為により生じた害が避けようとした害を上回ってしまっている以上はせいぜい過剰避難が成立するにすぎない、というようなことを書きました(設問3は細部は若干記憶が曖昧ですいません)。

 

2.本試験を受けて感じたこと

 平成30年度に刑法の出題傾向に若干の変化が見られましたが、今年度の出題もその路線を継続するものであるように思います。すなわち、甲乙丙の罪責を検討せよというような簡潔な問いの下に事案の処理を求めるのではなくて、問いをより限定したうえで、理論的な側面についての説明も求めるというスタイルへの変化です。

 この傾向の変化をもって「学説についても覚えなければならない」というような声も聞かれますが、基本的には判例の立場を十分に理解したうえで事案を処理することが重要である点に変わりはないものと思われます。ただし、判例の立場にズルズルベッタリで判例の立場に対する批判的な見解は全く知りません、という状態だとおそらく今年度の設問2のような出題には対応できないものと思われますので、判例の立場に対する学説からの批判が根強いような論点については学説にも最低限の目配せをする必要があります。

 私の場合は判例百選の解説ページも全て読んでいたのである程度は学説の立場も目にしていました。また、何より愛用した演習書である『事例から刑法を考える』が学説の立場も含めかなり高度な内容を取り扱っていたので、今年度の司法試験でも助けられました。『事例から刑法を考える』は理論的な側面についてもかなり高度な内容を扱っているように思いますので、私はこれ一冊をやっておけば刑法の対策は十分であるように感じました(もっとも、一読して理解できない箇所は多数あったので、3回4回と繰り返し読んで理解を深めることが必要でしたが)。

 刑法については典型的事例について構成要件や違法性阻却事由の要件の摘示→当てはめ、を確実にできるようにしておき、判例の立場と学説の立場の対立があるような論点についてはそれぞれの主張やその理論的論拠も含めてざっくりと整理しておく必要があるように思います。